【コラム】Vol.11 猫さんのおひげ / 猫さんに関するあれやこれや
Vol.11 猫さんのおひげ
猫さんのおひげは、お目々や肉球にくらべると地味な存在ですが、猫さんにとっては大切な器官。イラストなどでも「猫らしさ」をアピールするには大切な部分です。
特に、おひげの生えている部分(「マズル」とか「ウィスカーパッド」とか呼ばれます)は、気持ちによってぷっくりと膨らんだりして、ここが好きという方も多いのではないでしょうか。猫さんが好きなら、ひげまで可愛い。
ということで、今月は猫とも新聞29号の巻頭記事を改訂・補足して、「ひげ」についてお届けいたします。
ピンと張ってりゃ「猫のひげ」
猫さんはとっても身近なものですから、細くてぴーんと張ったものは、とりあえず「ネコノヒゲ」と名前がつけられてしまうようです。
草花には「ネコノ○○」という名前を持つ種類が多いですけど、もちろん、ネコノヒゲもあります。
伸びた「蘂(しべ)」が猫さんのおひげみたいということで、英語名もキャットウィスカー。別名クミスクチン(マレー語でネコノヒゲという意味)と呼ばれるシソ科の植物です。葉っぱに利尿作用や血圧を下げる効果のある成分を含んでいるそうで、日本には薬用植物としてやってきたみたいです。
ふわもふの猫さんからは遠い存在ですが、金属の世界にも「ネコノヒゲ」は存在します。
メッキされた金属を放置しておくと、ひげ状の繊維体が自然発生することがあって、このひげ状繊維は「ねこのひげ」とか「ウィスカー(訛ってホイスカとも)」などと呼ばれます。電子機器がショートする原因になったりするのだとか。
けれど、この「ネコノヒゲ金属」ウィスカーは単結晶なので、不純物をほとんど含んでいません。だから、とっても強いんだそうです。今では、金属はもちろん樹脂やセラミックスなどの強度を高めるための添加剤として利用されているのです。えっへん。
映画もあります。「ねこのひげ」
映画の世界でも、2006年の第28回びあフィルムフェスティバル招待作品に、そのものずばりの「ねこのひげ」(矢城潤一監督/渡辺真起子・大城英司主演)というのがあります。
お互いの家庭を捨てて一緒に暮らし始めた男と女。けれど、3年も経つと微妙な距離感が生まれて来て…というストーリーですが、作品に登場するロシアンブルーがいい仔たちだともっぱらの噂でした。主演を務める大城英司さんの飼い猫さん(当時)だそうです。
宝物です。「ねこのひげ」
英語で「猫のひげ」はthe cat’s whiskersといいますが、これは憤用旬となっています。その意味するところは『とても素敵なもの』。「イッツァ・キャッツ・ウィスカー」で「そいつぁ素敵だ」という感じ。
この表現は、1920年代のアメリカで生まれました。当時は「アヒルのがあがあ」the duck quackとか「象の手首」the e1ephant’s wristとかいろんな言い方が流行ったそうなんですが、生き残ったのが「猫さんのひげ」。「猫のニャー」cat’s meow、「猫のパジャマ」Cat’s pajamasも同じ「素敵なもの」という意味で、今も使われています。
うーん。英語圏の方々もわかってらっしゃる!
おひげの役割
飾りじゃないのよ、おひげは♪
見れば見るほど立派な猫さんのひげ。猫さんのひげは、動物学的には「洞毛」といいます。
おひげの役割はセンサー、メジャー、コミュニケーションツールと多岐にわたります。猫さんにとってはまさに「宝物」なのです。
●おひげの名前
猫さんのおひげは、顔の周りと前肢に生えています。
お顔には、両目の上(人でいう眉の辺り)と、頬、マズル、あごに生えていて、特にマズルのひげは長く、身体の幅より長く伸びています。
それから、前足の後ろ側にも生えていて、これもお顔のと同様に敏感なセンサーです。
おひげのことを「触毛」とか「震毛」ということもありますが、これらの用語は、昆虫の触覚や焦のひげなども含む広義の言葉で、哺乳類のひげの場合は「洞毛」と呼ばれるみたいです。
●構造と仕組み
猫さんのひげ「洞毛」と人間のひげでなにが決定的に違うかというと、人間のひげは体毛のひとつだということ。人間のひげは髪の毛と同じ構造で、アンテナにもならなけれぽ、自由に動かすこともできません。
一方、猫さんのひげは、ヒクヒク動いて、いろんなことを教えてくれます。
猫さんのひげは、普通の毛よりもずっと太く、毛軸は約0.1~0.2mm。根っこの部分は、血洞(静脈洞)という血管が膨らんだ部分で包まれています。「洞毛」という名前はここからきているのです。
このため、毛根が、いわば液体の中に浮いたような状態となっていて、ほんのちょっとした刺激にも敏感に反応できるというワケ。
しかも、体毛の数十倍といわれる神経が集まっていて、情報が素早く脳に伝達されます。
血洞の周りには横紋筋が取り囲んでいて、ひげを自在に操ることができます。
猫さんのひげというやつぁ、なかなかどうして、複雑で機能的な構造を持っているんであります。
●高感度センサー
刺激に敏感に反応できる猫さんのひげは、大事なセンサー。とても小さな動きも察知できて、人の毛の幅のわずか1/2000という微細な動きも受容できるといわれています。
だから、風の流れも感知でき、暗闇の中でも物にぶつかることなく歩くことができるのです。
●お天気の変化を素早く察知
ニオイを運んでくる風の方向や、湿度などの微妙な変化もわかるので、雨の到来も察知できます。台風の前には素早く避難できるというわけです。
塀から塀へ飛び移るときなども、風速と風向きを測っているといわれています。
●お食事の際も活躍
ハンターである猫さんが獲物の生死を判断するときも、おひげが活躍します。獲物を口にくわえたままでも、振動や体温を感じ取って、大きさや生死を判断するわけですね。
また、猫さんの目は近いものにしっかりピントを合わせることが苦手なので、口ひげで食べ物を感じ取るのだともいわれています。
●お目々の保護にも
目の上のひげ「上毛」は、反射弓によってまぶたとつながっており、顔の近くに刺激を感じるとすぐに目を閉じることができるようになっています。大切な目を保護する役割もあるんですね。
●前脚のひげは障害物を感知
前脚にあるひげについては、詳しいことはわかっていません。でも、足元を見ずに障害物を越えるために役立っていると考えられています。
●この穴通れる?通れない?
顔の周りに生えている毛の先端を線で結んでいくと、まあるい円を描きます。
狭いところを通るときは、まず顔をちょっと入れてみて、体が通るか通らないか判断します。
●猫さんの気持ちも伝えます
おひげの役割は、ただ受信するだけではありません。
興味があるとかへこんでいるとか、猫さんの気持ちを発信します。この辺については後ほど図解することといたしましょう。
見てきたように、猫さんのおひげは大変な働き者。食事の後など猫さんが大切にお手入れをしているのもうなづけますよね。
おひげの役割
●抜け替わるけど抜いちゃダメ!
ひげは自然に生え替わりますが、むりやり抜くのはNG。
上で見たようにひげは神経と繋がっている大切な感覚器官。完全室内飼いの猫さんでしたら、抜いても日常生活にそんなに差し障りはありませんが、バランス感覚が悪くなったり、幅を測ることができなくなったり、生え替わるまで難儀をします。
それに、平衡感覚などが乱れることで、猫さんが軽く「鬱(うつ)」の状態に陥ってしまうことも。新しく生えてくるまで部屋の隅にうずくまって動かなくなってしまったり、ストレスで亡くなってしまった例もあるといいます。
ひげは切ったり抜いたりしないでくださいね。
●おひげと年齢
おひげの長さは、若いほどしっかりと太くて長く、歳をとった猫さんのものほど短いと言われています。
●おひげは何本?
「猫は○○する」というタイトルで人気の、リリアン・J・ブラウンの推理小説・シャム猫ココシリーズでは、猫のひげは24本、でもココは特別に30本と書かれています。
けれど、実際の猫さんには50~60本のひげが生えているんですよ。
●おひげの色
猫さんのおひげは真っ白ばかりではありません。
黒・ツートン・白が主流ですが、中には茶色い仔も。こんなところにもおしゃれをしているのです。
●ひげまじない
◆金運
抜け落ちたヒゲを財布に入れておくと金運が上がると言われています。
ただし、編集部で実践したところ、おサイフを破っておひげが顔を出したことがあるので、保管場所は選んだ方がよいかも。
◆恋愛運
クマカズラ・スモモの種・薔薇香油・オス猫さんのひげをよ~くすり漬して乾かし、愛する人に飲ませれば、願いが叶うんだとか。
飲ませる勇気があれば、その前に告白できそうな気もいたしますです。はい。
読者アンケート
あなたはひげを取っとく派?
読者の方へのメールとインターネツトのアンケートサイト「どうなのねっと」で緊急アンケートを行ったところ、のべ46人のこ回答をいただきました。ありがとうこざいますっっ。
さて、その結果なのですが、なんと4割近くの人が「捨てちゃう派」でした。「見かけない」「質問自体にびっくり」というこ回答もあって、取っておく派のスタッフは「私ってヘンタイ?」などと言い出す始末。でも、「猫さんをくすぐってから捨てる」「長いのだけ取っておく」という方もいらしてひと安心。
もちろん、「全部取っておく」という方も大勢いらっしゃいました。全部取っておく派だけでも3割を越えました。
中には「歴代猫のをコレクション」「陶器で作った猫さんの置物に本物のひげを挿しておく友人がいる」など、レアなご回答もあって、編集部一同脱帽でございました。
あ。「取っておく人がいるのかと思うと今度から取っておかなければと思いました」とお答えのタエコさん、推奨しているわけではありませんよ~。
突然メールを差し上げてしまったにも関わらず、快くこ回答いただきました皆さま、ほんとにありがとうこざいました。
おひげの気持ち図鑑
ひげをホッペタにくっつけて耳はごく自然にたてているときは、しごく安定した状態で満足しているときで
ひげをび一んと立てて、耳も自然に立っています。マズルも膨らんで、とってもうれしいしき。イタズラが成功したときのドヤ顔です。
ひげも耳も前方に向げて、警戒中。おひげなんて鼻より前にでちゃってます。瞳孔も大きく開き、すべてを動員して情報を収集中。
ひげはホッペタにくっつけて、耳は伏せ、瞳孔が開いているときは、ビビってます。安心させてあげましょう。
ひげをだら~んと垂らしてぼ~んやり。こんなときは「あ~、たいくつ~」を顔全体で表しています。
記事協力 / 猫とも新聞
2020年6月22日更新