【コラム】Vol.15 またたびの誘惑 / 猫さんに関するあれやこれや
Vol.15 またたびの誘惑
昔から猫さんにはまたたびが〝効く〟と申します。〝猫にまたたび 泣く子に乳〟とか〝猫にまたたび お女郎に小判〟なんて諺で、どれだけ好物なのかがわかります。
でも、なぜ、猫さんはそんなにまたたびが好きなのでしょう。あんまり興味がない仔だっていますよねぇ。そもそも、またたびってどんなもの?キャットニップとはちがうものなの?
意外と知らないまたたびんこと、猫とも新聞50号の巻頭記事を改訂・補足してお届けいたします。
またたびってなぁに
またたびは、千島列島南部から日本列島、朝鮮半島にかけての山林でみられるツル性灌木で、キウイフルーツやキウイの元となったサルナシなんかと同じ仲間です。ちなみに、キウイの果実をあげても猫さんは喜びませんが、枝や根っこではマタタビと同じ反応を示すという実験結果が報告されております。
6~7月頃、写真にあるような白い可憐な花を咲かせます。ちょっと梅の花に似ていることから「ナツウメ」と呼ぶ地方もあるようです。
この頃になると、葉の表面が白っぽくなる(白変する)ので、すぐに見分けられるようになるそうです。
この花が実を結ぶのは秋口。ドングリ型の実をつけますが、漢方などで使われる〝実〟は、このドングリ型の果実ではありません。
またたびの木にはオス株とメス株があって、ドングリ型の実はメス株しかつけません。完熟すると甘酸っぱくておいしいのですが、若い実は舌や口の周りが痺れます。オス株はドングリ型の実はつけませんが、蕾の時期にマタタビアブラムシが寄生すると、そのままカボチャ型の「虫こぶ」「虫エイ」と呼ばれる虫果になります。これが、漢方でいうところの木天蓼(もくてんりょう)。冷え、神経痛、腰痛などに後納があるとされ、ドングリ型よりも薬効が高いといわれています。
マタタビ踊り
またたびが猫に及ぼす効果を研究し、マタタビラクトンなどの成分を突き止めた大阪市立大学の目(さかん)武雄教授は、その論文『またたびの研究から』(「生物の科学 遺伝」1953年)の中で、次のように書いています。
〝ネコにマタタビを与えると、いや、ネコはマタタビの香で引き寄せられてくるようで、はじめ噛んでいるうちに、よだれを出だし、口の片を軽く痙攣させながらフレーメンという笑いに似た表情をはじめ、放尿したり、のどを鳴らしたりしだす。そのうちに瞳孔の拡大が起こって、眼がすわってくる。こうなるとマタタビ以外に関心を示さなくなり、マタタビ踊りをはじめる。そのあとはぐっすり眠り、さめると何もなかったように常態に復する。〟
教授はこれを「マタタビ反応」と名付け、「マタタビ踊り」については、
〝マタタビ踊りといっても化け猫のように二本脚で踊るのではなく、マタタビに頭、首、肩、背中をすりつけながら、くるりくるりと体をくねらせて転げ回るのをいう。〟
としています。
教授の的確な表現力には脱帽。猫さんに実験をじゃまされたことなども書かれていて、論文なのにおもしろいのです。
50号で編集部はさいたま市にある猫カフェ「ルディ」さんの協力を得て、スタッフ猫さんにまたたびを与えてみました。教授が描写したとおりの「マタタビ踊り」が見られました。
またたびの有効成分
マタタビのなにが猫さんをここまでさせるのか?
前述の目(さかん)武雄教授らのグループが、1950年代に2つの成分を突き止めました。マタタビラクトンとアクチニジンです。
中でも、マタタビラクトンは「ネコやライオン、トラなどのネコ属の動物に強いマタタビ反応を示し、作用物質の本体であることがわかったので、マタタビラクトンと命名した」とのこと。後に、マタタビラクトンはすでにあった「イリドミルメシン」と同じ物だと判明しましたが、わかりやすいためか、またたびに含まれる成分はマタタビラクトンと呼ばれることが慣例になっています。なお、アクチニジンはマタタビの植物学名・アクチニジアにちなんで名付けられました。こちらはネコだけでなく、イヌ科の動物からサイまで広範囲に作用します。
現在、ネコ科の動物の場合には、マタタビラクトンなどがフェロモンを認識するヤコブソン器官を刺激して、性的な反応を引き起こすのではないかと考えられています。
ちなみに、目教授は研究中に「実験室にネコの来訪があったり、研究者が見知らぬネコに飛びつかれたり、テストすべきサンプルをネコに盗まれたりで数年がすぐに経ってしまった」とか。ご苦労のほど、いたみいります。
この実験に協力した動物表情研究の第一人者である京都大学の関 直之助教授は、目教授の抽出したサンプルを自宅の飼い猫二匹で試して、その様子を『ネコとマタタビ』(「生物の科学 遺伝」1953年5月号)に綴っています。
「残念なことに、私の不在中ネコが押入に忍び込んで記録用のメモの紙をめちゃくちゃに噛みちぎってしまった」「のみならず、せっかくもらった実験用抽出入りのアンプールを(中略)外包ごとネコがくわえ去って、ついにどこにも見当たらぬという事件も起こった」。
研究は一日にしてならぬ。ましてや、ネコが関わっては…。
ちなみに、またたびは「総体に成熟したオスの方がメスよりも反応が著しい」そうです。
CAUTION! あげすぎに注意
ねこさん大好き!のまたたびですが、あげすぎには要注意。あんまり与え過ぎは良くありません。
またたびにふくまれるマタタビラクトンは、猫さんにとって血管の拡張作用があるので、呼吸困難になってしまう恐れがあるともいわれます。
初めてあげるときは少しずつ様子を見ながら
シニア猫さんや心臓に問題のある猫さん、仔猫などには刺激が強すぎる場合もあります。まれにですが、またたびアレルギーを持つ仔もいるようですから、初めてまたたびをあげるときは少しずつ様子を見ながらにしましょう。
適量を守って一日0.5g程度に
またたびを与えるときは、ほんの少しの量で大丈夫。またたび製品の注意書きに従い、用量を守ってご使用ください。
薬も人によって効く人とそうでない人がいるように、またたびの効き方もねこさんによってさまざま。おかしいと感じたら、すぐやめましょう。
猫カフェでは遠慮しましょう
50号では、猫カフェ「ルディ」さんに特別にお願いして、またたびの効用を検証させていただきました(ルディさん、ありがとうございます)。
多くの場合、またたびを持っていると猫さんはやってきます。だからといって、猫カフェにまたたびを持って行くのは厳禁。健康管理のため、多くのお店で持ち込み禁止にしています。
自力で猫さんにモテるよう、努力しましょう。
またたびだけじゃない 猫さん陶酔植物
猫さんが思わずくらくらっと引き寄せられる植物は、またたびの他にもいくつか確認されています。これらはみな、似たような化学物質を含んでおり、これが猫さんたちを引きつけると考えられています。
キャットニップ(イヌハッカ)
ネペタラクトンという物質が猫さんを興奮させるとされます。シソ科植物は、キャットタイムやケイガイ、そしてミント系のハーブも猫さんに人気です。
サルナシ
キウイの原種でもあり、またたび属のサルナシ。実はコクワと呼ばれ、果実酒やジャムになります。
キウイ
キウイ農家の方は、根や若芽を猫さんに囓られて困ることもあるそう。
カノコソウ
根は「吉草根」という漢方で、鎮静作用があるとされます。菓子やタバコの香料にも利用されます。
センブリ
「千回振り出してもなお苦い」からセンブリといわれほど、苦~い胃腸薬。この苦いのが好きな猫さんもいるんです。
ミツガシワ
漢方では「睡菜(スイサイ)」と呼ばれ、苦味健胃薬として用いられます。動物学者の元村勲氏に、タイトルもそのまま「ネコはミツガシワを好む」というレポートがあります。
記事協力 / 猫とも新聞
2020年11月24日更新