【コラム】Vol.09 猫さんの素敵なお耳 / 猫さんに関するあれやこれや
Vol.09 猫さんの素敵なお耳
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
季節はいよいよ春めいて、猫さんが一緒にお布団で寝てくれなくなったお家も多いことでしょう。
今月は、猫さんのカラダシリーズ・第6弾「耳」をお届けします。世間は『萌え』の時代ということで、猫さんの部位の中でも可愛いお耳は大きくフューチャーされていますね。「コスプレ」でも猫耳はすっかり基本となっています。
そんな猫耳の話題を、猫とも新聞33号の巻頭から改訂・補足してお届けします。
猫さんはお耳のも大人気
コスプレの定番アイテム「猫耳」は、日本各地で行われるようになった猫祭りや猫踊りといったイベントでは、小さな子からおいちゃんおばちゃんまで猫耳をつけて猫になりきっています。
2011年には、ニューロウェアから脳波を感知し、気分に合わせて動く「necomimi」が発表されました。リラックスしているときはくたりと耳が折れ、集中するとピンと立つ仕
組みで、先行発売時には2時間で3000個を売り上げたといいます。
幻のネコミミ新幹線
テクノロジーと猫耳の融合ということでは、新幹線と猫耳も深い関係がありました。今、東北新幹線を走っている「はやぶさ」や「はやて」「やまびこ」などのE5系車両。時速360キロで走る試験車「ファステック360」の技術を土台にしています。このファステックは、空気抵抗を使って急激にスピードを緩めるブレーキ補助装置を搭載していました。写真にある黄色い三角形がその装置。鉄道ファンの間では、ずばり「ネコミミ」の愛称で呼ばれていました。残念ながら、このネコミミ、新型新幹線には採用されませんでした。「ブレーキをかけてから停止するまでの制動距離を現行新幹線と同等に保つには、時速320キロ走行ならネコミミは必要ない」と判断されたためです。今後、もっともっと速い新幹線が導入されたときには、もしかしたらネコミミが搭載されているかも知れません。
編集部では「耳たぶ」と呼んでいます。
あちこちで引っ張りだこの猫さんのお耳ですが、つけ根部分に切り込みがあるのを、愛猫家の皆さんだったらご存じかと思います。「縁皮嚢(えんぴのう)」といいます。なんのためにあるのかはわかっていないそうですが、耳を折るときはここから折れるので、編集部では耳を自在に動かすためにあるとニラんでおります。
ちなみに、「耳袋」と呼ぶ方も多いようですが、編集部では「猫の耳たぶ」と呼んでいます。バブルの時代に一斉を風廃したレベッカというバンドのボーカル・NOKKO。今はソロ活動されていますが、『ベランダの岸辺』というアルバムに「猫の耳たぶ』という曲が収録されています。「耳たぶ」はタイトルと冒頭に出てくるだけですが、ボサノバ調の気
持ちいい一曲です。これに気をよくして、猫とも新聞的に「縁皮嚢」は「耳たぶ」に決定!
梶井基次郎は短編『愛撫』という作品の中で、猫が耳を引っ張られても、そう痛がらないのは、この耳たぶのせいではないかと書いています。
『一度引っ張られて破れたような痕跡が、どの猫の耳にもあるのである。その破れた箇所には、また巧妙な補片(つぎ)が当っていて、(中略)その補片が、耳を引っ張られるときの緩めになるにちがいないのである』。
こらこら。よい子の皆さんは、猫さんのお耳を引っ張ってはなりません。
その後、基次郎は実際に耳を噛んでしまい、猫が大きな悲鳴を上げたことで、猫さんだって痛いのだということに気づきます。挙げ句の果てに、とっても怖ろしい夢にうなされることになるのでした。ザマを見ろ、でございます。
それでも、基次郎の猫好きが伝わる文章ですので、興味のある方はご一読を。
お耳の構造
猫さんは、そんなに目がいいわけでも鼻が利くわけでもありません。もっぱら聴覚を研ぎ澄ますことで野生を生き抜いてきました。その性能は後ほど触れるこどにして、まずは基本的な構造を見てみましょう。基本的には、ヒトとそんなに違いがありません。
まずは大きな耳介(じかい)で音を集めます。耳介を動かす筋肉は、ヒトではたったの6つですが、猫さんは30(32という説も)も持っています。だから、左右別々に動かしたり、音のする方向に正確に動かして、必要な音を集められるんですね。
集められた音はラッパの管のような耳管(じかん)で増幅され、鼓膜を振動させます。
鼓膜の奥には鼓室(こしつ)があり、鼓膜には3つの耳小骨が繋がっています。鼓膜の振動は、この耳小骨を経由して内耳に伝わります。
内耳にある蝸牛(かぎゅう)は中がリンパ液で満たされていて、耳小骨からの振動がリンパ液を揺らします。リンパの揺れを感覚細胞が捉えて電気信号に変換、蝸牛神経を通じて脳に伝わるのです。
内耳には、もうひとつ「前庭器官」も収められています。前庭器官は、卵形琴球形嚢・三半規管からできていて、バランスを司っています。卵形嚢・球形嚢は直線方向の動きや重力を、三半規管は回転運動を感知します。これらの情報は前庭神経を通じて脳に伝えられます。
ヒトの外耳道は、耳の穴から水平なので、光をあてると鼓膜まで見ることができます。猫さんの場合は、耳の穴から下に向かって降りて、その後水平になるL字型をしています。ですから、皆さんがどんなに頑張っても、猫さんの鼓膜を外から見るこどはできません。
●可聴音域
猫の可聴域(音の聞こえる範囲)には諸説ありますが、英国の獣医学者フォーグル博士によるど、10オクターブ。30~60000ヘルツくらいだそうです。ヒトが「20~20000ヘルツ」、犬が「20~40000ヘルツ」といいますから、高音域に対する感度が優れている
ことがわかります。
このため、ネズミなどの小動物が発する小さな声も聞き取れるのです。
●精度
同じくフォーグル博士によるど、猫の耳は高音を聞き取れるだけでなく、その精度も優れています。8メートル先にあって8㎝しか離れていない2つの音源を、猫さんは75%の確率で正確に判断します。
こういった能力を「音源特定能力」どいいますが、音源が一つだった場合、猫さんの音源特定誤差はわずか0.5度くらいだそうです。ヒトでは誤差4.2度、ワンコさんでは2.3度くらいといいますから、その正確さがわかるでしょう。
●平衡感覚との関連性
猫さんの跳躍は、いつ見ても見事です。これは、発達した前庭器官のお陰。逆さに落ちるなどして頭の位置が変わると、前庭器官が素早く傾きをキャッチ。頭の位置をまっすぐの状態に戻すことで、身体も素早く立て直すことができるのです。
また、三半規管とは別に、猫さんの小脳には、視覚による優れた水平線検出能力が備わっていて、三半規管が不具合を起こしたとしても上手に頭の位置をまっすぐにキープできるという説もあります。
お耳のお手入れ
基本的に、猫さんのお耳はきれいなので必須ではありませんが、体質的に耳の脂分が多く、耳垢がたまりやすい仔もいます。耳介に黒いゴマ状の耳垢が見える場合は、お掃除してあげましょう。
お手入れ方法は、「Vol.02 猫さんと雨」で図解していますので、参考になさってくださいね。
さくら猫~V字カットのお話
●地域猫活動
捨てられたりノラさんから生まれたりした不幸な仔たちは、最悪の場合、殺処分されてしまいます。そんな不幸な命を救おうと盛んなのが「地域猫」活動。地域全体で猫さんの世話をし、共生していこうという活動です。猫嫌いな人の心情やノラ猫被害も考慮して、地域住民がエサ場やトイレの清掃、健康チェックなど適切な管理や飼育を行います。
●TNRとは
中でも重要なのが、不幸な猫さんを増やさないための不妊去勢手術を施す取り組み。「TNR」と呼ばれています。頭文字の表す意味は、
Trap:トラップ 捕獲機でノラさんを保護
Neuter:ニューター 不妊・去勢手術を施します。
Return:リターン 元の場所に戻します。
ここでいう「トラップ」とは捕獲機のことで、猫さんを傷つけたりしないものが使われます。
●お耳のV字カット
こうして、無事、手術を受けた仔たちには、その証として耳にV字型の切れ込みを入れます。何度もつかまって手術台に乗せられることを防ぐためです。
この形が桜の花びらに似ていることから、不妊・去勢手術を受けて耳をV字カットされた猫さんのことを「さくら猫」と呼びます。
V字は、猫さんの負担にならないよう、手術の麻酔がかかっている状態で行われ、ケンカなどのキズ(ほとんどの場合鋭角)と区別するため、90度くらいの角度がつけられます。
V字カットの猫さんをみたら、地域全体で愛されているんだな、この街は猫好きなんだなと思ってください。
The collection of Stylish Ear
●ScottishFold
スコティッシュフォールド
折れ耳・丸顔のスコちゃは、スコットランド中部のテイサイド生まれ。1961年、テイサイドの農家で一匹の白猫が生まれました。雄猫なのにスージーと名付けられていたこの仔は、生まれたときから折れ耳で、大きくなっても耳はそのままでした。
折れ耳は耳の伝染病を罹患しにくいというメリットがありますが、スコの中には関節の異常を持つ仔が生まれることもあるようです。しっかりしたブリーダーやショップを選びましょう。
ちなみに、折れ耳スコさんは、脚を開いて腰で座る「オッサン座り」も特徴です。
●Americancurl
アメリカンカール
外向きにカールした耳がクールな猫さん。1981年、カリフォルニア州レイクウッドのルガ夫妻の家に迷い込んできたシュラミスが発祥です。
彼女はその後、4匹の仔を生み、内2匹がカール耳をしていました。この仔たちを基礎として、品種の固定と改良が行われましたので、今あるアメリカンカールはすべてシュラミスの子孫といえます。
シュラミスは長毛でしたが、今は短毛の仔もいます。
耳がカールし始めるのは、生後2日から10日。カール耳の発生率は50%だそうです
●Norwegian Foerst Cat
ノルウェージャン・フォレスト・キャット
豊かで優雅な被毛とふさふさのしっぽを持つノルウェージャン・フォレスト・キャット。耳には、華やかな飾り毛を持っています。
故郷・ノルウェーでは、“Skogkatter(スコグカッテル)”もしくは“Skaukatter(スコウカッテル)”と呼ばれています。どちらも「森の猫」という意味。北欧神話に登場する恋の女神・フレイヤは2頭の猫に引かせた馬車と(いうか猫ゾリ)に乗っていますが、この猫というのがノルウェージャンだったのではないかといわれています。
●ServaI
サーバル
サバンナに住む美しい野生猫。小さな頭部に丸くて大きな耳が特長です。
●CarcaI
カラカル
西アジアやアフリカに住む野生猫。耳の先には、黒くて長~い房毛がついています。
記事協力 / 猫とも新聞
2020年2月25日更新